液体電極プラズマ発光分析装置を用いた環境試料中の微量元素分析

 土壌汚染の実態調査のためには、現場で迅速に分析できる技術が求められています。一般的な土壌中重金属の分析では、土壌と1M 塩酸を振とうし、抽出液を原子吸光法や誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)で計測します。これらの大型装置は、高感度ですが現場分析へ適用することは困難です。これに対して、最近開発が進められている液体電極プラズマ発光分光分析装置(LEP-AES)は非常に小型の装置であり、現場での迅速・簡便な分析が可能です。また測定に必要な試料量は40 μLですので、微少量試料の分析が可能となっています。しかし、プラズマ発光の安定性や重金属の検出感度が低いなどの分析上の問題が多いため、本研究では土壌中の重金属を固相抽出によって分離・濃縮し、LEP-AESを使用して簡易・高感度な分析法の開発を目指しています。

農産物や食品の産地判別技術の開発

 近年、食品の産地偽装が社会問題となっています。産地偽装を防止するためには、科学的判別手法の開発が求められています。農作物の元素組成は栽培された土壌の元素組成に影響を受けるため、産地により微量元素組成が異なります。このことから、微量元素組成による産地判別は有用な方法です。そこで本研究室では、高感度で迅速・簡便な分析が可能な蛍光X線分析装置を用いて、食品中の微量元素の定量を行います。さらに、求めた定量値を用いて、どの元素が産地の特徴を強く示しているかがわかる主成分分析や、判別式を構築して判別する線形判別分析といった多変量解析を行うことにより、産地を判別する手法を開発しています。

単細胞藻類を用いたレアメタルの回収

 レアメタルとは一般に、地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的理由により抽出が困難である鉱物を指します。製品中に使用される量自体は少ないものの、様々な分野で利用されており、その希少さから非常に価格が高い傾向にあります。そのため、リサイクルが必要となっている一方、現在のリサイクル方法ではコストがかかってしまいます。そこで近年、植物を用いて金属を回収する技術として「ファイトマイニング」が注目されています。本研究室では、単細胞藻類であるPseudococcomyxa simplexChlamydomonas reinhardtiiを用いてレアメタルを回収する技術の研究を行っています。藻類は増殖速度が非常に速く、低コストで環境にやさしいことからバイオマス資源に適した生物と有望視されています。単細胞藻類にレアメタルを添加し、回収・濃縮技術の開発を目指しています。

放射光を利用した環境浄化植物における重金属蓄積機構の解明

 本研究室では植物を利用した環境浄化技術(ファイトレメディエーション)の研究を行っています。ある種の植物は重金属汚染土壌でも生育し、生体内に重金属を高蓄積します。そのメカニズムを解明することによって環境浄化に役立たせようと考えています。特にモエジマシダというシダ植物はヒ素の高蓄積植物として知られ研究が進められています。また、ヒ素以外の元素についても蓄積することが報告されていますが、その詳細はわかっていません。そこで放射光を光源とする蛍光X線分析を行い、生きたままでの状態で測定を行うことによって、植物組織中の有害元素の分布や吸収・蓄積過程における化学形態の変化を明らかにし、重金属蓄積機構の解明を目指しています。 既に生体内中のクロムの分布の解明に成功しており、化学形態の解明も並行して行っています。クロムがどのような化学形態で存在しているのか、他の元素との関係が次第に明らかになりつつあります。

誘導結合プラズマ(ICP)への高効率試料導入機構の開発(産業技術総合研究所 計量標準センター 環境標準研究グループとの共同研究)

 誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)は、微量元素分析法として広く普及しています。無機材料、有機材料、環境試料、生体試料など応用は広範に及びます。これらの装置では、液体試料を霧化しプラズマへ導入することで測定を行います。霧化、導入プロセスは分析性能(感度、精度、安定性等)にとって重要な役割を持ちます。装置が開発されて以来数十年、試料導入のためのネブライザーやスプレーチャンバーは研究開発が続けられていますが、未だに改良の余地が残されています。そこで私たちは、分析装置の性能を生かすための試料導入系を生み出すために、ハイスピードカメラやグリーンシートレーザー、レーザー回折型粒度分布測定装置、画像解析式 粒度分布測定装置等を用いてネブライザーやスプレーチャンバーの研究開発及び評価を行っています。

水耕栽培の培養液の最適化に関する研究(電力中央研究所 環境科学研究所との共同研究)

 無農薬栽培が可能で、年間を通して安定した野菜の供給が可能となる植物工場は,次世代の農業として期待されています。植物工場で効率よく水耕栽培を行うためには、水耕栽培の培養液の最適化が不可欠です。栽培する野菜の種類によって養分の吸収特性が異なっていることや、過剰な養分を含む廃液が環境問題になりつつあることから、各植物に最適な培養液が求められています。そこで本研究では、各植物の養分吸収特性を明らかにして、各植物が十分に生育できる養分を含み、かつ低濃度の培養液組成を作ることを目的としています。 培養液の組成分析のために、イオンクロマトグラフィーと誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)の2つを主に使用しています。